習い事が多すぎる子へ|庭師の物語に学ぶ「減らす」基準【元塾長が解説】

教育

※物語の登場人物と会話は、すべて架空です。

月曜から金曜まで、毎日、何かの習い事がある。送り迎えと夕食の合間に、ふと、娘の顔を見て思う。「この子、最近、笑う回数が減ったかも」。

――そんな夜を過ごしている保護者の方に、今日は、ある庭師の物語を用意しました。

先に結論をお伝えすると、習い事が多すぎると感じたときに必要なのは、「どれを足すか」ではなく、「何を減らすか」を決める基準です。

今回は、書籍『エッセンシャル思考』(グレッグ・マキューン著)の「より少なく、しかしより良く」という考え方を、短い物語と解説でお届けします。

この記事のポイント

  • 習い事が多すぎるときは、「全部をほどほど」より、「選んだものに、ゆとりを持って」のほうが続けやすい
  • 減らす基準は、「やめるか続けるか」ではなく、「いまの自分に、ほんとうに大事か」を聞くこと
  • 親ができるのは、決めてあげることではなく、子どもの本音を聞く場をつくること

物語|庭師の佐伯さんと、枝を切る日

十一月の日曜日。森下さやか(40歳)は、実家の庭の縁側で、お茶にも手をつけず、スマホのカレンダーを見つめていた。

小学4年生の娘、ミオの予定は、びっしりだ。月曜はピアノ、火曜はそろばん、水曜は英語、木曜は水泳、金曜は塾。土日は、ピアノの発表会の練習と、水泳の大会。

庭では、近所の庭師、佐伯さん(68歳)が、庭木の手入れをしていた。ぱちん、ぱちん、と、枝を切る音が、一定のリズムで響く。

さやか
さやか

佐伯さん、そんなに切って、大丈夫なんですか。せっかく伸びた枝なのに

佐伯さん
佐伯さん

切らないと、花がつかないんですよ。枝が多いと、木は、全部の枝に栄養を配ろうとして、どの枝も、細くなる

さやか
さやか

どの枝も、細くなる……

佐伯さん
佐伯さん

ええ。木は、頑張り屋ですからね。切ってあげないと、頑張りすぎて、花を咲かせる力が残らない。いい枝を残すために、切るんです

さやかは、手元のスマホを見た。ミオの予定表が、頭の中で、細い枝の束に見えてきた。

さやか
さやか

うちの娘も、そうかもしれません。習い事を5つもしていて。どれも、本人が『やりたい』と言って始めたんですが……最近、帰ってくると、すぐ部屋にこもってしまうんです

佐伯さん
佐伯さん

それは、心配ですね。どの枝を切るか、決めてあげるんですか

さやか
さやか

やめさせるなら、一番、成果の出ていないものかな、と。ピアノは、発表会が近いし、水泳は、大会がある。そろばんは、級が上がってきたところで……全部、もったいなくて、選べないんです

佐伯さんは、ハサミを置いて、縁側に腰を下ろした。

佐伯さん
佐伯さん

『もったいない』は、木を切るときにも、いちばん、手が止まる言葉です。でも、ひとつ、聞いてもいいですか。その枝を『もう一度、新しく伸ばすとしたら、また伸ばしたいか』と

さやか
さやか

もう一度、伸ばしたいか……

佐伯さん
佐伯さん

これまで使った時間やお金を考えると、切れなくなる。でも、『今日、ゼロから選ぶなら、これを選ぶか』と考えると、すっと、見えてくることがあります。それを決められるのは、枝を伸ばしてきた、お嬢さん自身でしょうけれど

その夜。ミオが寝る前、さやかは、ベッドの端に座って、聞いてみた。

さやか
さやか

ねえ、ミオ。いま、習い事の中で、いちばん『やっていて、わくわくする』のは、どれ?

ミオ
ミオ

……え、やめさせるの?

さやか
さやか

ううん、違うよ。お母さん、ミオの話を、聞きたいだけ。あのね、全部、続けなくてもいいんだよ。ミオの『好き』を、ちゃんと伸ばしたいの

ミオは、しばらく黙って、布団の端をいじっていた。

ミオ
ミオ

……水泳と、そろばんは、好き。ピアノも好きだけど、発表会の練習が、ちょっとしんどい。英語は、先生が好きだけど、宿題が多くて。塾は、友達がいるから行ってるけど、本当は、ちょっと眠い

さやかは、うなずきながら、聞いた。「しんどい」と言ってくれたことが、うれしかった。

さやか
さやか

ありがとう。じゃあ、ひとつだけ、一緒に考えようか。『ちょっと休みたい』と思うものは、どれ?

ミオ
ミオ

……塾の曜日、1日、お休みしたい

さやか
さやか

うん。じゃあ、先生に、相談してみよう。ミオも、一緒に行く?

ミオは、小さく、うなずいた。

一週間後。庭の木には、少しだけ、すっきりした枝ぶりが見えた。ミオは、金曜日の夕方、ぽつんと空いた時間に、縁側で、お母さんと、お茶を飲んでいた。

ミオ
ミオ

お母さん、あの木、枝が減ったね。でも、なんか、元気そう

さやか
さやか

そうだね。……ミオも、元気そうだよ

ミオは、くすっと笑った。その笑い声を聞いて、さやかは、胸の奥が、ふっと軽くなるのを感じた。

解説|エッセンシャル思考の「より少なく、しかしより良く」

『エッセンシャル思考』が、繰り返し伝えているのは、「あれもこれも」を全部やるのではなく、「ほんとうに大事なこと」を見きわめて、そこに時間と力を注ぐ、という考え方です。

物語の「枝を切る」は、このたとえをもとにしています。


やることを増やすと、どれもほどほどになりやすく、ほんとうに大事なものに回せる力が、薄くなっていきます。

この考え方を、習い事に当てはめるときの、ポイントは3つです。

① すべてを「選ぶ」と、見えてくる

習い事は、「全部、役に立ちそう」と思うほど、選べなくなります。そこで、「全部やる」を前提にせず、「選ぶ」ことを前提にすると、基準が見えてきます。

② 「使った時間やお金」ではなく、「いま、ゼロから選ぶなら」で考える

物語の佐伯さんの問いかけです。これまでの月謝や、通った年数を理由にすると、手放しにくくなります。「もし、いま始めるとしたら、これを選ぶか」と考えるほうが、いまの本音に近づけます。


(これは、いわゆる「サンクコスト(もう戻らないコスト)にとらわれない」という考え方です。)

③ 決めるのは、子ども自身

大人が「これは要らない」と決めると、子どもは、納得しにくくなります。本人が「これは好き」「これは、ちょっとしんどい」と言える場をつくることが、親の役割です。

習い事を減らすときの、3つのステップ

ステップ1|「わくわく度」を、子どもに聞く

「どれが好き?」より、「やっていて、わくわくするのは、どれ?」「ちょっと、しんどいのは、どれ?」と聞いてみてください。

「やめる?」と聞くと、子どもは、責められたと感じることがあります。

ステップ2|「減らす」ではなく、「休む」から始める

いきなり、やめる必要はありません。「1か月、お休みする」「曜日を減らす」といった、小さな調整から始めても、子どもの様子は、見えてきます。

ステップ3|空いた時間を、「なにもしない時間」にする

空いた時間に、すぐ別の予定を入れないでください。ぼんやりする、遊ぶ、眠る。この時間が、次に伸びる力を、静かに蓄えます。


(睡眠や休息の大切さは、こちらの記事でも解説しています。)

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元塾長として、伝えたいこと

教室で、たくさんの子どもたちを見てきて感じるのは、「たくさんやっている子」より、「ゆとりがあって、自分で選んでいる子」のほうが、表情が明るいことが多い、ということです。

もちろん、個人差があります。

ただし、習い事を減らすかどうかは、家庭の事情や、お子さんの気持ちによって、答えが変わります。この記事は、「減らすべき」と勧めるものではありません。

迷ったときに、「ほんとうに大事なのは何か」を、親子で話すきっかけになれば、うれしいです。

なお、お子さんが、眠れない、食欲がない、学校に行きたがらないなど、心身の不調が続く場合は、家庭だけで抱え込まず、学校の先生やスクールカウンセラー、かかりつけ医など、身近な専門家に早めに相談してください。

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まとめ|「足す」前に、「選ぶ」

習い事が多すぎると感じたときは、「どれを足すか」の前に、「ほんとうに大事なのは何か」を、子どもと一緒に考えてみてください。

親の役目は、枝を切ってあげることではなく、「どの枝が、いちばん元気?」と、本人に聞くことです。

今夜は、お子さんに、「いま、やっていて、いちばん、わくわくするのは、どれ?」と、聞いてみませんか。答えは、なんでもかまいません。

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