【元塾長が解説】子どもについ怒ってしまう親へ|切れない包丁の物語に学ぶ「刃を研ぐ時間」

教育

夜の10時。寝息を立てる子どもの横で、ふと思い出す。今朝、「早くしなさい!」と叫んだときの、あの小さな「ごめんなさい」。

そんな夜を過ごしたことのある方に、今日は、ある研ぎ屋さんの物語を用意しました。

先に結論をお伝えすると、イライラが止まらない原因は、愛情不足でも性格でもなく、多くの場合、親自身の「刃」が欠けていることにあります。

つまり、休息や回復の時間が足りていない状態です。今回は、『7つの習慣』の第7の習慣「刃を研ぐ」を、短い物語と解説でお届けします。

この記事のポイント

  • イライラが続く背景には、親自身の余裕のなさがある
  • 「刃を研ぐ」とは、自分を回復させる時間を、先に確保すること
  • 研ぎ方は「身体・心・頭・人とのつながり」の4つ。1日10〜15分から始められる

※物語の登場人物と会話は、すべて架空です。

物語|切れない包丁と、商店街の研ぎ屋さん

夕方の商店街。八百屋と薬局にはさまれた小さな店の軒先に、「砥部刃物店 研ぎます」と手書きの看板が出ている。店先では、白い猫が砥石の横で丸まっていた。

篠崎ひなた(35歳)は、新聞紙にくるんだ包丁を握りしめて、その店の前で立ち止まっていた。小学2年の息子ソウタと、年少の娘ミナを育てる母親で、今日はパートの帰りだ。

ひなた
ひなた

あの……これ、研いでもらえますか。今朝、トマトが潰れちゃって

店主の砥部さん(62歳)は、眼鏡を持ち上げて、包丁の刃を光にかざした。

砥部
砥部

ほう。これは、よく働いた刃ですな。……ただ、だいぶ疲れてます

ひなた
ひなた

疲れてる、んですか。包丁が

砥部
砥部

ええ。切れない包丁は、力を入れないと切れない。力を入れるから、手が滑る。滑るから、危ない。包丁は、疲れるほど乱暴になるんです

ひなたは、あいまいに笑った。今朝、トマトの前で何があったかを思い出したからだ。

保育園の準備が間に合わず、ソウタに「早くしなさいって言ってるでしょ!」と大きな声を出してしまった。ソウタは黙って靴を履き、玄関で小さく「ごめんなさい」と言った。

砥部
砥部

お客さん。最後に、自分のために15分使ったのは、いつです?

ひなた
ひなた

え? ……えっと。……思い出せません

砥部
砥部

ははあ。研ぐ前の包丁と同じ顔をしてる

ひなた
ひなた

失礼ですね

砥部
砥部

失礼しました。ちなみに私は、25年間、学習塾の塾長をしておりまして。人を見る目だけは、包丁より鋭いつもりなんです

ひなた
ひなた

塾長さんが、研ぎ屋さん?

砥部
砥部

刃物と教育は、似てるんですよ。まあ、座って。ナカト、どいてあげなさい

白い猫が、「にゃ」と短く鳴いて、椅子から降りた。「ナカト」は、砥石の種類の「中砥(なかと)」から取った名前らしい。

砥部
砥部

こんな話があります。ある木こりが、森で必死にのこぎりを引いている。通りかかった人が言う。『のこぎりの刃を研いだら、もっと楽に切れますよ』。木こりは答える。『研いでる暇なんかない。木を切るのに忙しくてね』

ひなた
ひなた

……それ、私だ

砥部
砥部

世のお母さんお父さんの、ほぼ全員です

ひなた
ひなた

でも、研ぐ時間なんて。子どもは待ってくれないし、洗濯も、夕飯も

砥部
砥部

全部やろうとするから、研げない。包丁を研ぐのは、10分もあれば足ります。大事なのは、『暇ができたら』じゃなくて、『先に』研ぐこと。研いでから切ったほうが、結局早いし、まっすぐ切れる

ひなた
ひなた

先に、ですか

砥部
砥部

ええ。お客さんにとっての『砥石』は、何です? 温かいお茶を一人で飲む。10分、歩く。好きな音楽を一曲。何でもいい。大きくなくていいんです

ひなたは、少し考えてから、ゆっくり答えた。

ひなた
ひなた

……夜、子どもたちが寝たあとに、台所でコーヒーを飲む時間、かな。でも、いつも洗い物に追われて、結局飲まずに寝ちゃうんです

砥部
砥部

じゃあ、洗い物は半分、明日に回しましょう

ひなた
ひなた

えっ。いいんですか、そんなことして

砥部
砥部

包丁を研いでいる間、野菜は待っててくれます。洗い物も、待ってくれます

ひなたは、思わず吹き出した。こんなふうに笑ったのは、いつぶりだろう。


一週間後の夕方。ひなたは、また店の前に立っていた。

ひなた
ひなた

……トマト、きれいに切れました

砥部
砥部

それは良かった。包丁がですか、お客さんがですか

ひなた
ひなた

……両方、かもしれません。昨日の朝、ソウタが『お母さん、今日は怒らないね』って

砥部
砥部

ほう

ひなた
ひなた

怒らなかったというか、怒る前に、一回、息をする余裕があったんです。先週の夜、洗い物を半分残して、コーヒーを飲みました。それだけなんですけど

砥部
砥部

それだけが、いちばん大きいんですよ

猫のナカトが、満足そうに「にゃあ」と鳴いた。

解説|親のイライラは「刃こぼれ」のサイン

物語の中で砥部さんが語った「木こりの話」は、『7つの習慣』の第7の習慣「刃を研ぐ」の考え方を表しています。

忙しいときほど、人は「目の前の作業」を優先して、自分を回復させる時間を後回しにします。

しかし、疲れて余裕がない状態では、同じ言葉でも強い口調になりやすく、子どもへの声かけも、反射的で乱暴になりがちです。

イライラは、性格の問題ではなく、「刃こぼれ」に気づくためのサインだと考えると、自分を責めずに済みます。

『7つの習慣』では、自分を磨き、回復させる領域を、身体・精神・知性・社会情緒の4つの側面に分けて考えます。親の日常に置き換えると、次のようになります。

4つの側面研ぎ方の例(1日10〜15分が目安)
身体寝る前にスマホを置く時間を決める/10分歩く/軽くストレッチをする
心一人で温かい飲み物を飲む/好きな音楽を一曲聴く/ゆっくり深呼吸する
頭1ページだけ本を読む/子どもに関係のない、好きな分野に触れる
人とのつながりパートナーや友人、祖父母に「今日は少し休みたい」と伝える/気持ちを話す

「研ぐ」ためのコツは、3つだけ

① 「暇ができたら」ではなく、「先に」やる

物語のとおり、時間が余るのを待っていても、研ぐ時間は永遠にやってきません。一日の予定に、「自分のための10分」を、先に入れてしまいます。

② 小さく、続けられる大きさにする

1時間の休息を目指すと、続きません。まずは10分で十分です。小さくても、毎日続くことが、刃を保つコツです。

③ 手放すものを、先に決める

物語では、「洗い物を半分、明日に回す」と決めました。時間をつくるには、何かを手放す必要があります。家事の完璧さを、少しだけ下げる。これも「研ぐ」ための大切な準備です。

親に余裕ができると、子どもとの関わりも変わる

親の余裕は、子どもとの関わり方に、そのまま表れます。余裕があれば、子どもの話を最後まで聴く、約束を一緒に決める、といった関わり方もしやすくなります。

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なお、疲れやイライラが長く続く、眠れない日が続く、といった場合は、一人で抱え込まず、かかりつけ医や、お住まいの自治体の子育て相談窓口など、身近な専門家に相談することも大切です。

まとめ|子どもに向き合う前に、まず自分の刃を研ぐ

イライラが止まらないのは、愛情不足ではなく、親自身の刃が欠けているサインです。「先に」「小さく」「手放して」、自分のための10分をつくる。

それが、子どもへの声かけを変える、いちばんの近道になります。

今日の夜、洗い物を半分だけ残して、温かい飲み物を一杯。まずは、そこから試してみてください。

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