【元塾長が解説】受験期の「やることが多すぎる」を整理する|喫茶店の角砂糖の物語に学ぶ「最優先事項」

教育

夕方の台所。机の上には、問題集が5冊、学校のプリント、塾の宿題。「全部やらなきゃ」と言いながら、どれも途中で止まっている我が子を見て、ため息をついた経験はありませんか。

――そんな受験生の親御さんに、今日は、ある喫茶店の物語を用意しました。

先に結論をお伝えすると、やることが多すぎるときに必要なのは、「もっと頑張ること」ではなく、「先に入れるものを決めること」です。

『7つの習慣』の第3の習慣「最優先事項を優先する」を、短い物語と解説でお届けします。

この記事のポイント

  • 受験期に「やることが多すぎる」と感じるのは、全部を同じ重さで扱っているから
  • 大切なのは、緊急ではないけれど重要なこと(基礎の復習・睡眠など)を先に確保すること
  • 親ができるのは、優先順位を決めてあげることではなく、「今日の大きな石は何?」と1つだけ聞くこと

※物語の登場人物と会話は、すべて架空です。

物語|喫茶店のマスターと、角砂糖とコーヒー豆

十月の終わり、駅前の古い喫茶店「ひだまり」には、夕方の柔らかい光が差し込んでいた。

森田ゆうこ(43歳)は、窓際の席で、ぬるくなったカフェオレを前に、ため息をついていた。中学3年の息子ハルトの受験まで、あと数か月。

カウンターの奥から、マスターの宇野さん(62歳)が、声をかけてきた。

宇野さん
宇野さん

今日は、ため息が多いですね

ゆうこ
ゆうこ

あ、すみません。……息子のことで。机には問題集が5冊も並んでいるのに、どれも中途半端で。英単語のアプリも、動画の授業も、全部手を出しては、止まっているんです

宇野さん
宇野さん

それは、気がかりですね

ゆうこ
ゆうこ

だから、『全部やらなきゃ間に合わないよ』って、つい言ってしまって。そうしたら、『わかってるよ!』って、イヤホンをつけられてしまいました

宇野さんは、少し笑って、カウンターの下から、小さなガラスの瓶を取り出した。

宇野さん
宇野さん

お母さん、少し、実験をしてみませんか。私は喫茶店を始める前、学習塾で、子どもたちに教えていたことがありましてね

ゆうこ
ゆうこ

塾の先生だったんですか

宇野さん
宇野さん

ええ、昔のことです。さあ、ここに、コーヒー豆と、角砂糖があります

宇野さんは、まず、瓶にコーヒー豆をいっぱいに入れた。そして、角砂糖を、一つ、瓶の口に近づける。

宇野さん
宇野さん

この角砂糖を、瓶に入れてみてください

ゆうこ
ゆうこ

え、でも、もう豆でいっぱいで……入りませんよ

宇野さん
宇野さん

そうですね。では、今度は、順番を変えます

宇野さんは、瓶の中身を、いったん、すべてあけた。そして、先に、角砂糖を、瓶の底に並べた。そのあと、コーヒー豆を、ざあっと流し込む。豆は、角砂糖のすき間に、すとんと落ちていった。

ゆうこ
ゆうこ

……全部、入った

宇野さん
宇野さん

同じ量なんです。違うのは、順番だけ。大きなものを先に入れれば、小さなものは、すき間に収まります。でも、小さなものを先に入れてしまうと、大きなものは、もう入らない

ゆうこ
ゆうこ

息子の机と、同じですね

宇野さん
宇野さん

お子さんの『角砂糖』は、何でしょう

ゆうこ
ゆうこ

えっと……やっぱり、苦手な数学の、基礎の復習でしょうか。でも、本人は、新しい問題集のほうに、目が向いていて

宇野さんは、静かに、首を振った。

宇野さん
宇野さん

それを決めるのは、お母さんでしょうか

ゆうこは、言葉に詰まった。

宇野さん
宇野さん

角砂糖が何かは、本人にしか、本当の意味では、わかりません。人から『これが大事だ』と言われたことは、すぐに忘れてしまう。自分で『これが大事だ』と思ったことだけが、続くんです

ゆうこ
ゆうこ

……じゃあ、私は、何をすればいいんですか

宇野さん
宇野さん

聞いてみてください。『全部』ではなく、『今日の角砂糖は、何?』と。一つだけ

ゆうこ
ゆうこ

一つだけ……

宇野さん
宇野さん

そして、もう一つ。『今日は、やらなくていいこと』も、一緒に決めてあげてください。やることを減らしてあげるのも、親にできる、大事な応援です

ゆうこは、空になった瓶を、じっと見つめた。


数日後の夜。夕食のあと、ゆうこは、洗い物をしながら、リビングで問題集を広げているハルトに、声をかけた。

ゆうこ
ゆうこ

ねえ、ハルト。今日の角砂糖は、何?

ハルト
ハルト

は? 何それ

ゆうこ
ゆうこ

今日、これだけはやりたい、っていうの。一つだけ。……あとは、今日は、やらなくていいから

ハルトは、あきれたように、ゆうこの顔を見た。でも、しばらく考えて、付箋を一枚、はがした。

ハルト
ハルト

……英語の長文。昨日、間違えたやつ、もう一回やる

そう書いて、ペンを置く。付箋は、机の端に、ぺたりと貼られた。

ゆうこ
ゆうこ

うん。じゃあ、お母さん、邪魔しないね

ゆうこは、台所に戻りながら、胸の奥が、少しだけ、軽くなっているのを感じた。机の上の問題集は、まだ5冊並んでいる。でも、その中の1冊の上に、黄色い付箋が、静かに貼られていた。

解説|「緊急」と「重要」を分けて考える

物語の中で宇野さんが見せた角砂糖とコーヒー豆の話は、『7つの習慣』の第3の習慣「最優先事項を優先する」に出てくる、「大きな石を先に入れる」という有名なたとえ話をもとにしたものです。

やるべきことを、重要度の高いものから順に扱うことで、全体の時間や力を、無駄なく使えるようになるという考え方です。

この習慣では、物事を「緊急かどうか」と「重要かどうか」の2つの軸で整理する、時間管理のマトリックスが紹介されています。受験期に当てはめると、次のようになります。

緊急緊急ではない
重要第1領域:直近のテスト勉強、提出期限が迫った課題第2領域:基礎の復習、苦手分野の克服、睡眠、体調管理
重要ではない第3領域:急ぎに見えるけれど、合否に直結しない作業(凝りすぎたノートづくりなど)第4領域:ダラダラ見続ける動画、なんとなくのSNS

受験期に、つい時間を取られるのは、第1領域(締め切りに追われる)と、第3領域(急ぎに見えて、実はそこまで重要でない)です。

一方で、合否を左右しやすいのは、第2領域、つまり「緊急ではないけれど、重要なこと」です。基礎の復習や睡眠は、今日やらなくても、すぐには困りません。だからこそ、後回しにされやすいのです。

受験期に「やることが多すぎる」と感じているときは、すべてが同じ重さに見えている状態です。まず、「今日の大きな石」を1つだけ決める。それだけで、机の上の景色は、ずいぶん変わります。

受験期に、親ができる3つのこと

① 「全部」ではなく、「今日の大きな石は?」と1つだけ聞く

「宿題は終わったの?」「あの問題集は?」と、全体を確認する聞き方は、子どもにとっては、プレッシャーになりがちです。

代わりに、「今日、これだけはやりたいことは?」と、1つだけ聞いてみてください。何を選ぶかは、本人に任せます。

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② 「今日はやらなくていいこと」を一緒に決める

やることを増やすのは簡単ですが、減らすのは、本人にはなかなか難しいものです。

「この教材は、今週はお休みにしようか」と、やらないことを決める許可を、親が出してあげることも、立派な応援です。

③ 睡眠と体調を、「最優先」に置く

直前期は、つい睡眠時間を削ってしまいがちです。しかし、睡眠や体調は、第2領域の代表です。勉強の時間より先に、休む時間を確保することを、家庭のルールにしてみてください。

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なお、受験生本人が、眠れない、食欲がない、強い不安を訴えるなど、心身の不調が続く場合は、親だけで抱え込まず、学校の先生やスクールカウンセラー、かかりつけ医など、身近な専門家に早めに相談してください。

まとめ|「頑張る量」より、「入れる順番」を

受験期に「やることが多すぎる」と感じたときは、頑張る量を増やす前に、入れる順番を見直してみてください。

親の役目は、順番を決めてあげることではなく、「今日の大きな石は何?」と、本人に聞くことです。

今日の夜、まずは、付箋を一枚、机の端に置いてみてください。書くのは、子ども自身です。

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